息を整えながら網を構え、
女の子がトンボを睨みつける。
だが、トンボはそんな女の子をあざ笑うように、
余裕たっぷりに草の上で体を休めていた。

「教えて欲しいよ……。
 キスの次も、そのまた次も……」


蝉の声が響く中、少女は集中力を奪われることなく、手に持った色鉛筆を動かしつづける。

「いや……。
 でも、ここでやめるのは、もっと嫌……」


俺の横を通り過ぎる最中も、少女は歌っていた。
まっすぐに、前だけを見て。

「瀬川さんの手、温かいです……」


「ええい、服じゃま!」

そう叫んだかと思うと、明希ちゃんは豪快に
ワンピースの裾をめくり上げた。

「……ん? どうかした?
 あたしの顔に何かついてる?」

「……走ってきたの?」
「さあね……はい」

そう言うと、絢水ちゃんは手に持っていた大きな傘を差し出した。


「うわぁ……」
初めて見る、レンズの向こうの星の世界に、
京ちゃんは驚きの声をあげた。

今まで体験したことのない距離に、
奏芽(かなめ)くんがいた。
金縛りにあったように、体が動かない。


「綺麗ですね……」
「うん……」
『くらえーっ! 明希ちゃんスペシャル!!』
「……ちょっと、うるさいけどね」
「ふふっ、そうですね」

「えっ?」
「あ……」
「………………」

その瞬間、湯舟が凍りついた。